ドッペルゲンガー
教室に戻ると、待ち構えていたように高岡先生が近付いてきた。


「西村君の分身はあくまでも西村君だったようね。」


高岡先生はプリントを海斗に渡した。


「これは‥しまった!!そういや昨日からテストだったんだよ〜!」


解答欄には見事にペケが咲き乱れ、点数欄にひとつだけ丸があった。


「はぁ、少しでも期待したオレがバカみてぇじゃねぇか。」


「バカみたいじゃなくてバカよ。西村君はどこまでいっても西村君だわ。」


高岡先生は笑いながら立ち去っていった。
海斗は唇を奮わせながら、もう一度答案用紙に目を向ける。
海斗の唯一の得点源「国語」だった。
これは一大事だ。停学の危機を乗り越えたと思ったら、今度は留年の危機だ。


「まったく、火にあぐらだぜ!あいつ、もう絶対許さん!」


「火に油ですよ。西村君が日頃勉強を怠っているから‥‥。」


学級委員長は不意に海斗の殺気を感じとり、口をつぐんだ。が、遅かった。
この後、学級委員長を見た者はいない。


放課後、教室では海斗とトミーが打ち合わせをしていた。


「釘バットに割れたビール瓶、大理石の灰皿、骨董品‥。」


「おい相棒、どんどんサスペンス定番の凶器になってるぞ。」


「トミー、遊びじゃないんだ。真剣に考えろ。」


「お前、人に言えねぇだろうが!なんだそのレスラーマスクは?」


「顔を見られないためだろうが。ちなみに去年、お前から貰った誕生日プレゼントだ。」


「確にそうだけど、もう普通に会おうぜ。そんな変人が来たら誰でも自己防衛したくなるぞ?」


「そうか‥さすがにレスラーパンツに上半身裸じゃヤバいか。」


「はぁ‥確認しといてよかったぜ。」


結局、海斗の服装の賛否だけ打ち合わせた結果となった。
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