恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
海斗とは口をきいていないどころか、顔も合わせていない。


お隣さんなのに。


海斗の姿を見かける事もない。


家先でばったりはち合わせになる事すらなくて。


そのまま4日が経ってしまっていた。


「あいっ。都会のいなぐはしゃれちょーさ(都会の女の子はお洒落だね)」


父親がアメリカ人で母親が日本人だと教えてくれた彼女。


幅広ふたえまぶたに淡いブラウン色の瞳。


背が高くて、顔は小さくて、こげ茶色の髪の毛はベリーショート。


気さくでさばけた話し方。


「わんねぇ、稲嶺里菜さ。ゆたしくね(よろしくね)」


“リナ”でいいさ、と人懐こく笑った彼女は同い年で、隣の隣の集落から、毎朝フェリーで石垣島の高校に通っていて、バレーボール部に所属しているらしい。


どうりで背が高いわけだ。


「はーっさい! 誰かね! “でーじちゅらさんや”言ったんはさぁー」


キリ、とつり上がった細く整えられた眉毛。


切れ長の目と、こんがり小麦色に焼けた肌。


果たしてこれはお洒落にセットされたものなのか、ただの寝癖頭なのか。


ヘーゼルナッツ色の無造作な髪の毛。


左耳に輝いていたのは真っ赤な宝石のピアス。


「話が違うば」


ぶっきらぼうな話し方。


「“でーじちゅらさんや”聞いてぃやしが。ウフしちゃんくとぅねーらんさ(たいしたことないな)」


もったいないな、と思う。


背の高い里菜より背は高いし、顔立ちだって整っているし。


だまっていればモテそうなのに。


「期待外れだに」


とゲタゲタ笑った彼もまた同い年で、隣の集落から里菜と同じ高校に通っているらしい。


「わんやぁ、喜屋武悠真やいびーん」


そう言って右の口角を上げた彼の頭を、


「悠真よー!」


里菜がアタックを打つように強く叩いた。
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