恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「1回じゃ足りない?」


く、と小さく笑いながら大我が振り向く。


そして、あたしの顎を人差し指で軽く持ち上げた。


「もう1回する?」


唇が重なる寸前に、


「しない。違うの」


あたしは大我の胸を押し返して、うつむき加減になりながら言った。


「旅行じゃない」


え? 、と大我があたしの顔を覗き込んだ。


「引っ越す事になったの。沖縄に。与那星島っていう離島なんだけど」


大我は一瞬おどろきを隠せない表情はしたものの、すぐに鼻で笑った。


「何、それってまじ?」


「うん」


「……へえ」


その瞬間、あたしは無性に不安になった。


もともとクールな性格でそっけない大我だけど。


へえ、と笑った大我はすごく冷血な目をしているように見えた。


「浮気しないでね」


あたしは毛布にくるまりながら、大我の胸板に頬を寄せた。


「あたし、大我のこと信じてるから」


「はあ?」


なに言ってんの、と大我が吹き出した。


「大我……?」


「浮気も何も。もう終わりでしょ、オレたち」


ジ・エンド。


そう言って、大我はあたしを突き放した。


「え……遠恋しないの?」


秒殺。


即答だった。


「するわけねえじゃん」


そっけなく言い放ち、ぶっきらぼうにベットを出て、テキパキと服を身に着け始める大我。


「……ねえじゃん、って……大我?」


あたしは恐怖によく似た衝動にかられながら、大我の後姿を見つめた。


「つうか、無理」


「え?」


「東京と千葉とか、東京と埼玉とかさ。それなら話は別かもしれないけど。東京都沖縄は無理でしょ、さすがに」
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