泣き顔にサヨナラのキス
……へっ?
「けん、ちゃん?」
「そう。昨夜、ずっと『けんちゃん』って笑いながら連呼してた」
孝太の声は不貞腐れて、拗ねた子供みたいだった。
「……孝太、もしかして、それで怒ってたの?」
「なんか、会社でカナの顔を見たら、ヘラヘラしてその名前を呼んでた事を思い出して。
どうしようもなく、イライラした。
だから……誰?その男」
あたしを軽く睨む孝太の瞳は真っ直ぐで、こんな時なのに、ちょっと嬉しくなった。