泣き顔にサヨナラのキス


涼子さんの薄紅色の唇が、キュッと結ばれたように見えた。

口を開きかけたとき、あたしよりも早く、原口係長が「付き合ってねえよ」と言い切った。

「そうなの?」

ホッとしたように微笑む涼子さん。


「そ、俺、野上にフラれたからな」

その原口係長の台詞に、手に持っていたビアグラスを落としそうになる。


「なっ、何言っているんですかっ」


「そうじゃないか」


「いや、どうでしょう?」


「……お前は、長嶋監督か?」

恨めしそうにあたしを睨んで、それから。


「後悔すんなよ」と笑った。





< 450 / 614 >

この作品をシェア

pagetop