偽りの人魚姫
一番の疑問は解決しないままだったけれど。

彼女を傷つけってしまったかもしれないけど。
 
俺は確実に、彼女に近づいた。
 
これで、教室の中で皆がどう思おうと

少なくとも俺は彼女を置物だとは思わないし

彼女は俺を置物だとは思わないだろう。

根拠はないけど、俺が彼女とこの世を繋げればいいと思った。
 
彼女のいなくなった公園。
 
当初の目的を思い出して、隣町を見下ろす。
 
辺りが暗くなければ、懐かしい情景。
 
初めて見る一面の温かいオレンジ色。
 
ひとつひとつに、それぞれの家庭があって、今は多分家族揃って食卓を囲んでいることだろう。
 
俺の家も、昔はそうだった。
 
いつから、家族そろって食事をしなくなったんだろう。
 
兄貴が大学入ってから?
 
俺が、部活に入ってから?
 
いつだったかなんて分かんないけど。
 
あの温かなオレンジの光が、今の俺の家にないのは確かだ。
 
きっと彼女の家にも、オレンジの光は灯っていない。
 
また彼女は今日も一人、コンビニでパンを買っているんだろうか。
 
考えると、温かなオレンジ色がなんだか霞んで見えた。
 
そろそろ兄貴はひとりの食事を終えて、部屋に引っ込んでいるだろう。
 
リビングで俺を話題にする両親が目に浮かぶ。
 
帰らなければ、きっと携帯が鳴るだろう。
 
そう思って、隣町に背を向ける。
 
まだなんの考えも浮かばないけど、夕飯にありつくために、帰路へ着く。
 
振り向いて再び目に入った公園は、彼女の面影も消えて。
 
入った時よりも、暗く見えた。


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