愛、シテあげる。番外編
「すみません、席を外してしまって」



応接室の扉を開くと、彼女は綺麗な姿勢のまま、俯いていた。

私の声に、慌てて顔を上げる。



「私こそ、お忙しいところをありがとうございました。
これ以上お邪魔するわけにも参りませんので、そろそろ、おいとまさせて頂きます。お礼の方は後日改めて、」



思わず、手で制す。


いきなりストップのサインを出した私に、彼女は目を見開いた。



だが、一番びっくりしているのは、私だ。


分からない。

自分が何をしているのか。




もっと一緒にいたい、

この人のことを知りたい。


なぜ、そう思ってしまうのだろう。



「あの…「私は、社長の海城昌彦と申します」



私は、何をしたいのだろう。



頭では混乱したまま、ゆっくり微笑む。



しばらく固まっていた彼女も、紅い唇に微笑を浮かべた。




「私は、株式会社慶洋、代表取締役元専属秘書の吉岡小百合と申します」




その名を耳にしたとき、直感で分かってしまった。



私は、いつかこの人の声で、自分の名を呼んで欲しいのだ。



この人の側に、いたいのだ。





なんて滑稽なんだろう。



いい年して、一目惚れなんて。



つづく


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