LOVE*PANIC



「主題歌の話、今すぐ取り消して下さい」


一歌は気を落ち着けるよう、努力しながらそう言った。


興奮していたら、まともに会話など出来ないからだ。


一瞬、喜ぶ柴田の姿が頭に浮かんだが、すぐに消えた。


そんなことはどうでもいい。


「何で? 折角のチャンス、無駄にするの?」


修二が途端に感情を読み取りづらい声に変えるので、一歌の興奮した気分は一気に覚めた。


修二には、相手の気分を引き摺る力がある。


それは、俳優という職業特有のものなのか、それとも、そういう力があるから俳優として成功しているのか。


「だから、夕べもお断りしましたよね?」


一歌は冷静になった頭で言葉を選んだ。


「うん、だからだよ」


修二が相変わらずの口調で言うので、一歌には全くその意味が分からなかった。


「はい?」


一歌は首を捻りながら、声を出した。


「ま、お詫びのプレゼントみたいなもん?」


一歌は修二のその言葉を素直に受け取ることが出来ずにいた。


絶対、裏で何か考えている。


そうと思うことしか出来ないのだ。


誰だって、嫌いだと思った人の言葉など、素直に受け取れないものだ。


「信用してないだろ?」


一歌は修二の言葉に口を結んだ。


その通りだ。


「本当だよ。あとさ、誘いたいところがあるんだけど」


修二は一歌の気持ちなどお構い無しに話を進めた。


やっぱりあるじゃないですか、という言葉を飲み込み、一歌は別の言葉を口にした。


「お断りします」


無駄に話す必要はない。


「明日、仕事入ってる?」


修二は一歌の断りなど聞く耳持たぬ様子だ。



< 43 / 109 >

この作品をシェア

pagetop