モノクローム
秋風
もう少し、このままで…



出来るなら、いつもの様に爽やかに笑いかけて、君は不思議そうな顔をしながら、柔らかな表情を見せてくれたりして。

なんて言うのは単なる夢の中の事にしか過ぎなくて、現実は朝から執拗なチャイムの音と異常な頭の痛み、そして左の頬の痛みで起こされた。


昨日の事など思い出したくもない。
そこに何らかの証拠があっても、それを確かめるのは酷く億劫な事だし、確かめる間でもなく、それが自分の本音だと知っている。

多分、このチャイムはそれを解りたくない人。
だから、敢えて俺は無視を決め込んだ。
やがて相手も諦めて帰って行き、通常通りの雰囲気を取り戻した頃。

床に転がる折れ曲がったタバコを見つけ、その辺に落ちていたライターで火を点けた。
宙に上がる紫色した煙りを目で追いながら、この後の事を想像して直ぐに止めた。


とにかく、今は何もしたくない。


もう少し…

もう少しだけ、眠りたい。



だから、誰も邪魔しないで。





力を無くした手はそのまま床へ落ち、火の点いたタバコが床を焦がしていく。
管理人が見たら請求されるな、と思ったけど別に構わなかった。

跡が着いた床も、見計らったように鳴らされた携帯も、余計な事は全て後回しにして意識を放り投げた。
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