モノクローム
橘さんはふぅと鼻で長い息をしてお茶を一口含み、ゴクリと喉を鳴らして目の前で両手を組む。
その手はシワだらけで、いかにも苦労して来ました。と語っていた。




「黒川さん」


「…はい」


「加害者は貴女を監禁したんですよ?…」



その言葉に私は唾を飲み込んだ。
それを眺めながら、まるで子供に諭すように橘さんは話しを続ける。




「言いたくない気持ちは分かるんだけど、事件を早く解決する為に協力して貰えないだろうか…」


「事件?…」



私がそう言うと澤田さんは席を立ち、震える肩を撫でながら「大丈夫よ。ゆっくりでいいから」と言った。


なんで分かってくれないんだろ…

春は何もしてないのに。


手の甲に涙が落ち、緩やかに筋を伸ばして行く。
ぼんやりとする視界の中でシワのある手とポケットティッシュが見えた。



「辛い気持ちは良く分かる…でも、貴女は何も悪くないんだから、何も気にする必要なんか無いんだよ」




橘さんの目は何を言っても、犯人が春だと決めつけているようだった。

でも、私は「何もされてない」と言い張った。


何を言われても、何度訊かれても、そう言った。
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