モノクローム
そして雪解けが始まる頃、住むアパートも決まり、後は引っ越しをするだけの状態だった。

どこから聞きつけたのか、早瀬さんが訪ねて来て、すっかり荷物の無くなった部屋を見回して目を丸くさせている。




「すいません…今日はお茶が出せなくて…」


「いえ…お構いなく」


「今日は何か?」


「あ…、橘さんに言われまして…」



その名前を聞くのも久しぶりだな…と思いながら、梱包した段ボールに腰を下ろして窓辺を見上げる。
すると、早瀬さんが口を開いた。



「もう、癖みたいですね」


「え?…あぁ、はい…」



外は快晴だった。
雲一つない、真っさらな青一色。




「一応、念のために新しい住所を教えて貰えますか?」


「…橘さん…まだ疑ってるんですね…」



私がそう言うと早瀬さんは困ったように頭を掻いて、「仕事ですから」と手帳を開いて言った。

私はペンを受け取り、新しい住所を思い出しながら綴る。
早瀬さんは書き終えると同時に手帳を閉じた。
その左手には銀色のリングが光っている。



「結婚…されたんですか?」


「あ。はい…去年のクリスマスに…」



「…ロマンチックですね」




その言葉に早瀬さんは耳を真っ赤にして照れていた。
私は少しだけ羨ましく思った。
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