kenka
第10章 和解

海の見える丘の上の墓場に、
奈央は一人で来ていた。

そっと花を添え手を合わせる。
ココは、直の墓場だ。

この位置なら直も喜ぶだろうと
思い、直の両親が多額な金を出して
わざわざ建てたのだ。

「直さん…」
サアッと風が吹く。
花が飛ばされないように、
両手で抑える奈央。

風と共に、葉が飛んで来る。
それは直の墓に舞い、まるで
奈央を歓迎しているかのようだ。
少し微笑んで奈央は
その葉を掴むと、直の墓を
見て言った。

「あたし、あなたを尊敬してました。
呉羽を守ってくれて、喧嘩の意味を
教えてくれて、あたしのモヤモヤを、
いとも簡単に消し去ってくれて。
直さんに憧れてる人なんて沢山居たの
かもしれませんけど、そういう感情じゃ
無いんです。…残念です」
奈央は鼻声になりながら続けた。

「もっと一緒に居たかった」
心から思った言葉だった。
もう会えないと分かっていても、
とめられない思い。
奈央は一生懸命こらえた。

「これからも沢山来ます。
…待ってて下さいね?あたしだけじゃ、
ありませんから」
奈央は最後に笑って、手紙を置いた。
今度は違う花束を持って移動していた。
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