世界が終わる前に


「あまり心配かけさすなよ。……それに奈緒は今、受験生だろ?」


「……」


「……もうあいつとは会うなよ、いいな?」



私は俯いたまま、こくんと一度だけ頷いてみせた。


だって、お兄ちゃんが言ってる事は少なからず正しい尤もな言い分だから。



「帰るぞ」



そう言って立ち上がったお兄ちゃんに続いて、私もゆっくりとさっきより重くなってしまった腰を上げて立ち上がった。


とっくに沈んだ夕日のオレンジが消えて、空は深い藍色に染まっていた。


それを横目に、遠ざかるお兄ちゃんの背中を追いかけた。



終始無言の帰り道の道中、久しぶりに兄と交わした会話がこれか、なんて改めて思ったら悲しくなった。


……同時に、彼ともう会えないと思うと更に悲しさが増した。



きっと、もう彼に会うことはないだろう。


だって連絡先の交換は疎か、彼の学校名も何も聞かなかった。


――知れたのは、名前だけ。


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