彼岸と此岸の狭間にて
「成る程、それで仕事が欲しかった訳で…」             
(という事は、まだこの絡繰りに気付いてない!?

今、教えて落胆させるのも気の毒!

30両は無理だとしてもいくらかは貰えるわけだから…)


「菱山殿に聞いたのですが、私が山中殿の御友人の仕事を奪い取ってしまったようで…申し訳御座らぬ」             

「お気に召さるな。この男、拙者の義弟にあたります故…」

「という事は、妹君(いもうとぎみ)の夫という事ですか?」

「いえ、まだ結婚はしておりませぬが、将来を誓い合った仲で結婚も間もなくかと…」                
「それは心強い!」               
「ええ、これが誠に素晴らしい男でしてな…ただ下戸なのが『玉に瑕(きず)』。ははははっ…その内一度御紹介いたしましょう!」

「おおっ、それは是非とも。長崎を出て三年になりますが、中々良い友人に巡り合えず、苦労しておりました。ここで中山殿に会えたのが『千載一遇』と思うとおりましたのに、さらにもう一人、素晴らしい人に会えるとは…」      
「そう言うて頂きますと酒の一本も馳走したくなりますな」

「では、今度の機会に是非とも…」                    
「承知つかまった。ガハハハハハッ…」                  
「それで山中殿の御家族は?」

「拙者は妻と娘が三人と先程申した妹が一人」

「それは賑やかで羨ましい!!」

「長谷部殿はずっとお一人ではお寂しいでしょう?今度、拙宅にでもおいで下され!」

「それは有り難き申し出。遠慮せずに参上いたしましょう」



二人の笑い声が九月の夜の駒込の森に谺(こだま)していた。
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