彼岸と此岸の狭間にて
〔4〕                    
「葵殿〜っ!」               
誰かが遠くで呼んでいる。            
(花沢か!?でも『葵殿』って言ったよな、『殿』って!花沢が俺を『葵殿』と呼ぶわけないし…誰だろう!?)                       
葵は現状の把握に努める。周りは白い靄が掛かって足元が『ふわふわ』して心許(こころもと)ない。              
「葵殿〜っ!」                 
再び呼ばれた。                 
(やはり『葵殿』って言ってるぞ!誰だ?)                
目を凝らして見るが、靄と遠くの為にはっきりしない。                       
(向うは俺の事を知っているみたいだし…)                               
覚束(おぼつか)ない足を一歩踏み出す。                 
(えっ!?)                  
着床した感覚がない。敢えて言うならば、空中に足を置いた感じ。それでも歩けるようだ。葵は声のする方向に歩き出す。



暫らく歩いても出会わない。それで歩を速めてみる。
だが、かなり早い速度で歩いているはずなのに追いつかない。それならばと、走ってみる。

それでも追いつかない。声の主も同じ速度で遠ざかっているようだった。                 
(ははあ〜ん、分かったぞ。これは夢だ、きっと夢を見ているに違いない)              
尚も続けて走っていると、突然、足元が大きく口を開け、真っ逆様に落ちて行く。                      
「うわあ〜〜〜っ…」                                                            




『ガタン!』という揺れで目が覚める。                  
(やっぱり夢だった!!)                       
小さな欠伸を1つして涙目を開る。                 
(あれっ!?)
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