『霊魔伝』其の弐 火の章
其の弐 火の章
家から出た零次朗を物陰から見ている、一人の老人がいた。

その老人が呟いた。
「やっと見つけたわい。大きくなったのお。我が孫よ。」

零次朗の姿が見えなくなると、老人は零次朗の家のチャイムを鳴らした。

小早川零次朗は、養子であった。

東京は深川の富岡八幡宮に捨てられていたのを、お参りに来た老婆が見つけた。

すぐに警察に届けられたが、結局捨てた親は出てこないまま、施設に引き取られることになった。

それを哀れんだ発見者の老婆が養子として、引き取ることにした。

不思議なことに、生まれて間もないと思われるのが、まったく泣かない子だった。
いつもニコニコしており、まるで傍にいる誰かにあやされているようだった。

それから三年ほどして老婆が亡くなり、零次朗は老婆の娘夫婦に引き取られた。

娘夫婦にはちょうど生まれたばかりの女の子がいたが、兄妹のように差別することなく育てた。

零次朗は、物心つく頃から、その女の子を本当の妹のように可愛がった。

その子の名は彩花。

彩花はその名前のように、とても美しく、そしてやさしく育っていった。

彩花の方も、零次朗を本当の兄として慕い、一家は幸せな日々を送っていた。
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