性別≠不一致
散歩

最初に彼を見かけた時は、女の子だと思った。


こっくりこっくり危なげに眠っているその顔は、俺のストライクど真ん中で意味もなく動揺したほどだ。


だけどその人は明らかに男物の衣服を身に纏っていて、バイト先の先輩であるマミさんが酔った勢いで叫んだ「こんな可愛い子が女の子のはずがない!」という頓珍漢な迷台詞が脳裏を過った。


もったいないなぁ。女だったら絶対口説いてたのに。


電車が駅に着く瞬間、彼は目を覚まして車窓から覗く風景を確認すると、慌てた様子で電車を降りる。


と、彼の上着のポケットから銀色のカードのようなものが落ちた。


俺も持っているものだから、遠目でもすぐにわかった。あれはパスモだ。


落としたのを教えようかと思ったが、彼は急いで降りて行って俺の視界にはもう映っていない。


届けた方がいいんだろうけど、この電車が最終便。もしパスモを届けて乗り遅れたら……。


「あーもう!」


もし俺がパスモを届けなかったら、もう二度と会う事なんてなかったのかも知れない。
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