この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
しばらく気まずい沈黙が流れた後


ヒゲ男は弱々しい声を出した。


「美代ちゃん…本当に…ごめんね。俺きっと探してみせるから…」


「…………」


「じゃあ…おやすみ」


そうしてヒゲ男はようやく、とぼとぼとアパートから去って行った。



「…うぅ……ぐす…」


残された美代は鼻をすすりながらチャリ…と玄関の鍵を回わす。


美代……


俺は小さく震える美代の背中を見つめて胸が熱くなっていた。


あの優しい美代が


普段怒りを見せない美代が


俺のことであの男に対して、こんなにハッキリと怒ってくれた。


それが素直に嬉しかった。


自分はどれだけ美代に大切にされていたのか


美代…


だけど俺はついに声をかける事ができずに


美代はそのまま家の中へと入って行ってしまった。


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