この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
―――――…






時計の短針が9を指している。


日が長い夏といえど、窓の外はすっかり闇に包まれている。


静かな部屋には夏虫の声よりも時計の秒針を刻む音の方が大きく響いている気がした。


『遅い…』


遅すぎる。


今までにも美代がサークルで帰りが遅くなった日はある。


だけどこんなに遅くなったことはない。


俺はリビングの真ん中でぽつんと座り暗い廊下の先の玄関を見つめていた。


美代のいない部屋は、こんなに広くて心細いものだと初めて知った。


『美代…』


危険過ぎるが、またベランダから脱走して美代を探しに行こうか。



そんな事を思い始めた時だった。



玄関の外からドタドタと大きな靴音と共に若者の笑い声が聞こえた。


次にガチャガチャと鍵を回す音


『ッ……!!』


美代か?!


俺はリビングから暗い廊下に向かって走り出していた。


ガチャリと開く玄関の扉


『美代っ!』


俺は玄関前で急ブレーキをして上を見上げた



―――瞬間


「おぉ~ここが美代ちゃんの家かぁ」


そこにいたのは知らない男と、そいつに肩を借りて足取りがふにゃふにゃになった美代だった。


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