先見の巫女


「…朱雀……」

「…っ…どうした!?」


朱雀は戦いながらあたしに顔を向ける。


「…愛してる…
本当に…心の底から…
来世でも…あなたを愛したい…」


笑顔を向ける。
何かを感じとったのか、
朱雀の顔はみるみる青ざめる。


「…雛菊……?
お前…何するつもりだ…?」


不安げに、少し怒りも含んだ声にあたしは小さく笑った。



この人は…
あたしの為に不安になったり、怒りを表したりする。

それが何だか嬉しかった…
あたしも…この世界で
生きていたのだと、
知っていてくれる人がいるから…


「…愛してる」


最後にそれだけ呟いて
瞳を閉じた。
それから言霊を紡ぐ。


「…時を越え来たれ
東を守りし四神、
青龍の御霊…翡翠龍よ…
我を依りましとし降臨せよ!!!」


雛菊の体から翡翠の光が弾け飛ぶ。



雲間に龍の影が映った。
元は同じ地に存在した
時の神…翡翠龍の姿だ。


「駄目だ!!!頼むから…
自分を犠牲にするな!!」


朱雀は今にも泣き出しそうな顔であたしに手を伸ばす。


「…ごめんね…朱雀…」


お願いだから泣かないで…
最後くらい笑ってよ…


「雛菊ーーーっ!!!」


朱雀の声と伸ばされた手に決意が揺らぎそうになる。

「翡翠龍…」


それを振り切るように
心の中で呼びかけた。


『我はお前と共に…』


そして翡翠の光が雛菊に
向かって一直線に落ちた。

光の中…
朱雀は必死にあたしに
向かって手を伸ばす。


……朱雀……


手を伸ばそうとして
止めた。
触れたら駄目…


きっと離れられなくなる…





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