いい意味で
第八章 さよなら
「もしかすると、私達の方が悪者なのかもしれません…」


第八章 さよなら


智久が横を歩いている。
空を見上げると、ビルが背比べをしていて、向こう側に朝焼けが見える
もう少しだけ、広い空がみたくなった。

僕はもう、若菜さんと会うこともないだろう。



若菜「もしかすると、私達の方が悪者なのかもしれません…」
ボーっと疲れた顔で若菜さんはつぶやく。

それを途切るかのようにおじさんは静かに諭す。
「おい若菜。何いってんだ。」
その声にハッとしたのか、「ごめんなさい。」とか細い声で謝っている。

おじさん「でも、あの化け猫が言っていた事が気になるな。俺や若菜達が悪い奴だなんてほざいてやがった。それに、途中から意識を乗っ取られたって言ってたしよ。」

若菜「あ、あの、でもヨシさん。あたし達、本当に悪い者ではないんです。」
気を取り直したような顔で若菜さんは僕に言ってきた。初めてあったあの夜の様に。

しかしそんな事言われたって僕には、何が何だか分からない。
頭が混乱するばかりだ。

おじさん「やっぱりおかしいな。妖怪が意識を乗っ取られるなんておかしい。それに、菊地つったよな?あのよ、若菜は殺されるような事をする娘じゃあない。普通の事務員として日々普通に暮らしているだけだ。普通にな。なぁ若菜?」

そう言った後、返事を待たずに「あの化け猫いったいどうなってやがったんだ。」なんておじさんはぼそぼそ言っている。
僕は何も答えず、その二人を見ているだけだ。

若菜「うん。でもヨシさん。あたし達悪い奴なんかじゃないんです!おじさんが言うように殺されるくらい悪いことなんてした覚え本当にないんです。普通に、かおやゆりの様に生きてきただけです!!」

きっとそうなんだろう。もし今日一緒に遊んだ若菜さんが悪ならば、僕はきっと沢山の物を信じられなくなる。きっと悪い奴ではないだろう。そう信じたい。

でも思考が混ざる。最後のネコの言葉。
まだ二回しか会った事がない。なんていう事実も僕を覆う。
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