ショコラ~恋なんてあり得ない~

 そして八月上旬。緊張した面持ちの宗司さんが『ショコラ』に入ってくる。


「いらっしゃいませ」

「やあ、詩子さん。今日はフラッペもらえる? できれば、……詩子さんに作ってほしいんだけど」

「あたしに?」


思わず厨房を振り返る。ここで見たってあっちからは見えないのだけど。

親父がいいっていうかな。
それが心配だけど、まあいいか。だすのは宗司さんにだけだし。


「ちょっと待ってて」


宗司さんにそう言って、厨房に入る。
視線をあげた親父に、何事かって顔をされたから、思わず目を泳がせてしまった。


「あの……、あのね。宗司さんが来たんだけど。あたしにフラッペ作ってくれって言うの。……いい?」


親父はチラと店の方を向いて、その後マサの顔を見た。


「お客様のご要望なら、詩子が作ればいいんじゃないか?」


後押しするように、マサが言う。
助かったわ。
空気読めるんじゃないのアンタ。

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