ショコラ~恋なんてあり得ない~

「もう帰る!」


そう言って、薄い上着を羽織って外へ飛び出した。

空はまだ明るかった。

四月も下旬。つい先日誕生日が終わったばかりだ。
その頃はまだかろうじて桜が残っていたと思うのだけど、今は葉っぱが出てきてしまっている。
ああ、今年も花見に行けなかった。

朝から朝食作りに洗濯、日中は『ショコラ』のウェイトレス、終われば買い物をして夕食作り。
あたしの生活って、なんて彩りがないんだろう。
親父の為に人生送ってるみたい。

自然に溜息も漏れ出るってもんだわ。


 考えながら歩いていると、駅前についた。
あの彼の勤めている学習塾には、明かりがついている。

日曜でもやるのね。
そう思いつつ、入り口の前でしばらく考える。

なんて言えばいいんだろう。


『さっきはすいませんでした。これお釣りです』


まあこの辺りが無難か。


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