ショコラ~恋なんてあり得ない~

 開店と同時に現れるのは常連客の男性二人。


「詩子さーん」

「いらっしゃいませ。わあ、また来てくださったんですね」


お愛想用の笑顔で応対。それだけで二人はでれっとした顔になってテーブル席につく。


「今日のお勧めはカフェモカですよ」


高いのを勧めておく。
この人たちはあたしのファンだから、勧めたものを注文してくれるもん。


「詩子さん、今度お休みいつ?」

「あら、私お休みないんですよう。お父さんったら娘だと思ってこき使うんですもん」

「定休日は?」

「おうちの片付けとか色々あるんです。うふふ」


自分でも気持ち悪い口調。でも仕方ない。
お店ではいつもこのキャラを演じる。


「少々お待ちくださいね」


常連客から、ビーフサンドのオーダーまでとりつけて、満足気にカウンターに戻る。
オーダーをそのまま伝えると、厨房からは小声で不満が返ってきた。


「ケーキじゃないんだ」


パティシエ志望のマサと、パティシエ上がりの親父はケーキの注文が好き。
サンドのオーダーに若干残念がる。

贅沢言ってんじゃないわよ。早く作りな。

客席からは見えない角度で一睨み。すると背筋を伸ばして親父たちは動き出す。
そうそう、ちゃんと働きなさいよ。労働は尊いのよ。
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