こころ と 現実
こころ と 現実
「ただいま・・・。」
冷たいノブをひねって、ドアを開ける。
夜中もとうに過ぎて、町の騒音さえ耳に入らない。
がちゃん・・・
冷たく響くのは、誰もいない部屋に入った私を、外の世界から隔離してくれる薄いドアの音だけ。
いくらもう直ぐ春とはいえ、誰もいない夜中の12時過ぎの部屋の中は、冷たくて暗い。
電気もつけずに壁に寄りかかる。
ワンルームのアパートには、キッチンの臭いがこもる12畳の部屋に布団と机が一つ。
青の遮光カーテンを閉めずに、月の明りだけ見ていた。
くたくたの体は、スーツを脱ぐことさえも煩わしくて。
このまま寝ちゃうと皺になっちゃうな、お化粧落としてないや・・・いろいろなことが頭をめぐるけど。
何もしたくない気持ちのほうが勝って、そのまま月を見上げる。
綺麗な半円の月が、南天からもうすでに遠い位置で地上を照らしていた。
ふと鞄から携帯を取り出す。
着信のない、画面が暗い部屋に浮かび上がる。
少しだけ残っていた期待が、しぼんでいくのが分かる。
そのまま目を閉じた。
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