期間限定、恋人ごっこ

「……甘いパンばっかり」
「ん?」

チョココロネにメロンパン。机の上には、まだメープルサンドとクリームサンドが残ってる。
甘党の私が見ても胸やけしそうなほど、見事に甘い。

「一個くらい調理パン……っていうか、栄養偏りすぎじゃない?」

井口は、1秒くらい考えて、カバンの中から野菜ジュースを取り出した。
黙ってじっと見ていたら、私の顔色を窺うように、さらにもう1本。

「いや、数の問題じゃなくて……」
「晩御飯はちゃんと食べるから」
「そういう問題でもないし」

母作の煮物をつついている私の箸先を見ている井口に、私はため息をついた。

「菓子パンばっかり食べてると、ばかになるんだよ」
「そうなのか」
「そうだよ」

小さい頃、甘いパンばっかりほしがった私に母が言った言葉。
幼かった私は、ばかになりたくない一心で、おかずもちゃんと食べるようになった。偏食が治るきっかけなんて、意外と些細なことだったりする。

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