マバユキクラヤミ
デアイ
 真夏の木漏れ陽の中、ボクはボク自身の心の闇を見た。
 
 美術系の大学受験に失敗したボクは、何をするでもなく夏を迎えてしまった。予備校に行くでもなかった。そんなわけで、昼間は仕事を見つけに行く、という名目でほとんど外に出ている。だが、実際は1日の大半を図書館や浜辺などで過ごし、本を読み漁るか、でなければ色鉛筆で海や、山などを描いていたのだ。

 その日も、ボクはリュック一つ背負って、自転車で出かけた。空の蒼さを全身に浴びながら、ボクの銀輪は軽やかに回る。たどり着いた公園。そのベンチに腰掛け、木漏れ陽を仰ぐ。それからボクは小さなスケッチブックを取り出し、48色の水性色鉛筆を脇に置いた。そして公園の隅の水道へ向かい、バケツ替わりの飯盒に水を汲んで戻ったボクを待っていたのは、意外な光景だった。
 ボクがいたベンチに、小犬を連れた女の子がちょこん、と座り、ボクのスケッチブックをめくりながら足をぶらぶらさせていたのだ。軟らかそうな黒髪が、水色のノースリーブのワンピースから覗く、少し焼けた肩を撫でる。
「これ、お兄ちゃんが描いたの?」
 女の子は顔を上げた。木漏れ陽にきらめく大きな瞳が不意にボクを見上げ、黒髪が風になびく。ボクは、その子の数年後を想像して、思わず鼓動が高まってしまった。
「私、アイ。4年生なの。近くに住んでるんだ。」
 一方的な自己紹介のあと、アイと名乗る少女はベンチを離れた。呆然と彼女を見つめていたボクに、アイはスケッチブックを突き出して微笑んだ。子犬がアイの足元ではしゃぐ。
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