。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
大丈夫…車のナンバーは盗難ナンバーだからあたしに行き着くはずがない。
だけどあたし何喋った―――?
何気ない会話でもあいつに身元をバレること喋ってないって言いきれる?
エンジンを掛けながら、ゆっくりと会話を思い出して大丈夫だと吐息をついた。
それでも悔し紛れにあたしはパワーウィンドウを開けた。
ちょっと顔を覗かせると、
「正々堂々闘いたいって言ったけれど―――そんな正義漢ぶってたら手に入れたいものも手に入らないわよ」
と、言ってやった。
鷹雄が切れ長の瞳を細めて、ちょっと唇を結ぶ。
「恋は戦争よ。求め、奪い―――常に闘って手に入れるもの。
その方法にきれいも汚いもない。あんたはきれなもの(こと)しか見てこなかったからそんなこと言えるけど、本気で好きになったらなりふりなんて構ってられない。
偽善者とは言わないけど、そんなお人よしだったらいつか泣きを見るわよ」
あたしは警告してやった。
鷹雄はジーンズのポケットに手を入れ、まるで射るようにこちらを見据えている。
本来なら無言で立ち去るつもりだったけど、鷹雄みたいな考え―――
あたしは気に入らない。
欲しいものは―――何があっても奪ってやる。
それが例えどんな酷いことであっても。
あたしは奪い取ってみせる。
あたしが車をバックさせて、引き返そうとしているとき打ち付ける雨が激しくなった。
地面の凹凸にできた水溜りを跳ね上げ、あたしは車を発車させた。
ルームミラーを見ると、暗い夜の闇に鷹雄が雨の中突っ立っていた―――
あんたは間違ってる。鷹雄。あたしの方が正しいの。
それを証明してやるわ。
助手席に投げ置いた朔羅との写真を睨むように見下ろし、
それでもあたしが知らない鷹雄の―――優しそうな、切なそうな表情が、
あたしの苛立ちを誘う。
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