。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
―――つい小一時間ほど前に、会長から電話があった。
『今から青龍会本部に来い。詳細はパソコンのメールに送った』
短い……一方的な電話だった。
「かしこまりました」
俺も何も聞かずに、そう返事を返した。
会長の声は普段通りのものだった。特に機嫌が悪そうでもなく、また常に俺が不安に思っている体調面も悪そうではないようだ。
電話を切った後に、我知らずため息が出た。
謹慎が明けても、龍崎グループ本社に行く気になれなかった。
昔はこんな諍いぐらいで、一々気に病んだりしないのだが、いかんせん今回の場合は俺が完全に悪い。
こっちの事情を考えていち早く会長が動いてくれたって訳なのに、俺は恩を仇で返すようなことをしてしまった。
本社に呼ばれれば話は別だが、今は本社でしか出来ない仕事があるわけでもない。
秘書は女だがしっかりした者が付いているし、会長は今日は午後から青龍会本部に行くとおっしゃっていた。
「俺は引きこもりの中学生か」
いや、歳を取ったということだな。年齢を重ねるとそれだけ慎重になる。
若い頃のように後先を考えず行動することが減った。
ぽつりと漏らして、メールを開こうとマウスをいじる…
スクリーンセイバーになっていた画面が切り替わり、お嬢、それから虎間 戒、そして…キョウスケの写真がデスクトップに映し出され、俺は思わず目を細めた。
誰だ、こんな小癪な真似しやがって。と問いたださなくても分かる。
「大狼!!貴様、また俺のパソコンを触ったな!しかも勝手に壁紙を変えやがって!」
机の上にあるガラス製の灰皿を遠くの方でコピー機に向っていた大狼に投げつけてやると、大狼はそれをひょいと避けた。
ガシャン!
派手な音がして、壁に掛けてある額縁が割れた。
ちっ。運悪く鴇田組の家紋が飾られている額縁に当たったようだ。
ガラスが割れて、額縁が傾いていた。
縁起が悪い。
だが誰も気にした様子も驚いたようでもない。
慣れたものだ。
それぞれ仕事をしていた組員たちが、「また?」と言うような呆れた顔でため息をついている。