栄人と優人ーエイトとユウトー
「早和さん?早和さんいるの?」

(優人君!)

「優人君、優人!」

早和は優人の声に恐怖を退け、必死に抵抗しながら名前を叫んだ。

「早和さん、どうしたのっ。」

優人が早和の声を追って、近付いて来た。

「ちぇっ、邪魔な奴が来たと思ったら目が見えない方か。なら、わけないな。」

男は早和から手を離し、優人に殴りかかった。
優人は相手の足音を頼りに杖を振り回すが、うまく避けられてしまう。
逆に、杖を取り上げられ、何度も何度も殴られた。

「誰か助けてー!!」

早和は力の限り声を出して、助けを呼んだ。
それを聞き付けた誰かが連絡したのか、警官が駆け付け、その男は連行されて行った。
優人と早和も警察で事情を聞かれ、その後、タクシーで早和のアパートに帰って来た。
早和は優人達のマンションへ行くつもりでいたのだが、先に優人が早和のアパートの場所を運転手に告げた為、敢えて言い直すことはしなかった。
アパートに着いて床に座ると、二人は疲労の為何もすることができなかった。

「ごめんね、私の為に。」

優人は警察署で軽く傷の処置をしてもらったが、背中を何度も杖で叩かれた為に痛みがひどく、早和に支えられて歩くのがやっとの状態だった。警察でも、明日病院に行って診てもらったほうがいいと言われた。

「俺さぁ。」

優人が、消え入りそうな声で話し始めた。

「えっ?」

「俺、何もできないんだよ。」

(優人君、泣いてるの?)

「何を言ってるのよ。確かに目が見えなくて、できないこともあるかもしれない。けど、さっき、鈴の音だけを聞いて私がいるって気付いてくれたでしょ。あれは、優人君だったからできたと思うの。」

早和は優人の側に行き、震える肩に手を置いた。
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