栄人と優人ーエイトとユウトー
「俺も幸せだよ。
きっと、今迄の十九年間で今が一番幸せだと思う。
早和さんも知ってると思うけど、今迄辛いことが多かった。
目が見えなくなった時、両親が交通事故で死んだ時、苛めにあった時、数えたらきりがないよ。
でもね、そんな時いつも兄貴がいてくれたから、耐えることができた。
けど、兄貴から早和さんを紹介されて、その日から早和さんのことが気になって。
早和さんは兄貴と結婚すると分かっているのに、早和さんのことばかり考えてしまって・・・。
そんな自分をどうすることもできなかった。
結局、早和さんを愛してると認めるしかなかったんだ。
そう、その時が一番辛かったなあ。
初めて愛した人が、誰よりも好きな兄貴の恋人なんてね。」

優人は小さく笑った。
そしてまた、話を続けた。

「しかも、もうすぐ自分の姉さんになるなんて。
自分が眠っている横で、愛している人が他の男に抱かれるんだよ。
もう、限界だったよ。
俺、二人が結婚したらすぐ、マンションを出ようと思ってたんだ。
今日も学校の用とか言ったけど、本当は住む所を探してた。
けど、目の見えない奴が一人で暮らせる所なんてなかなかなくて・・・。
ねえ、これからここで一緒に暮らさないか。
駄目かな?」

「ううん、私も優人と離れることなんて、もうできない。
そうだね、ここで一緒に暮らそう。
それから私、今の仕事辞めるね。
私には優人君がいてくれるからどんなに辛いことでも耐えられるけど、栄人さんにいつまでも辛い思いをさせることはできないから。
いつかは許してくれるって、私も信じているけど・・・。
明日、二人で栄人さんに会いに行こう。
そして、気持ちをきちんと伝えよう。
その後しばらく・・・、ううん、もしかしたら一生、栄人さんと会えないかもしれないけど、優人、それでもいいの?」
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