青い春と風の中で
新倉が教壇に立つと、私は黒板の前で立ち止まった。

先程まで、他愛のない話で盛り上がっていた生徒達が、一気に葵の話題へと変更した。


《せんせぇ〜…その人、誰ですか。転校生?…ワハハハ》


1人の男子の冷やかしの言葉に、クラスの生徒達の笑いが起きる。

「――この人は……」
新倉が口を開きかけた時、1人の男子が呟く。


《転校生じゃねぇよ。先生だよ…》


ぶっきらぼうに答える低い声に聞き覚えがあり、葵は教室内を見渡した。


1番奥の窓際の席に、朝会った少年が頬杖をついている姿を見つけた。


「あ、君はさっきの……」

《ふん…さっきは悪かったな……センセ》


《なになに〜知り合いなの〜?》

《せんせぇ〜コイツ、危険人物だから気をつけてなぁ。手が早いって有名だから》


《――おめぇら、ウッセ。別に俺から近付いてる訳じゃねぇよ。勝手に女が付いてくるんだよ。…》


《うーわ。さすが、モテる男は言うことが違うね》


「……さっき言ってた男子とは、アイツでしたか」

ボソッと葵にしか聞こえない位の声で新倉は日誌を開きながら呟く。


「えぇ…」


「……生徒も言ってましたが、本当に気をつけて下さいね。」


チラリと新倉は心配そうに葵に視線を向けると、すぐに前に向き直した。


「え、……それって」


「――ほらほら、静かにッッ」


まるで葵の声を遮るように、大きな声で新倉は生徒達に注意をしていた。



――気をつけてって、何のこと…?


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