AKIRA


 陽が、軽蔑したような眼で俺を見てる。

「馬鹿じゃねぇよ」

 そう啓介は、同じように冷ややかな態度を返す。そのまま俺の肩から、啓介の腕は離れた。

「ここ、教室だろ?」

「だから、なに?」

 啓介が、喧嘩腰な態度で陽の前に立った。

「予選も近いのに、女に現を抜かしてんじゃねぇって言ってんだよ」

「は? 何、やきもち? テニス馬鹿が……」

 まさか、陽がそんなもん焼くとは思えね……。

「誰がそんなもん焼くかよ!」

 ほらな。でも、いつもは冷静な陽が、啓介の挑発に乗り始めた。きっと、テニス馬鹿って言われて切れてんだろうな……。

 わかってるよ、陽の心配は、俺じゃない……テニスの事だって。

 啓介も、陽同様に予選に出るんだ。いつもこんなチャラチャラしてねぇで、もっと、しっかりしてほしいんだよな。

「ならいいけど……でも」

 啓介はそう言いながら、更に陽に顔を近付ける。

「惚れた女に気持ち言って何が悪い? お前だって本当は言いた……っ!」

 その瞬間、陽が啓介の胸倉を掴んで立ち上がった。

「てめ、それ以上言ってみろ」

 静かな声で、陽は啓介の耳元で、怒りを露わにしていた。



 周りに緊張が走る。



「なぁ、おい、お前らそれくらいにしとけって」

 心配そうに、佐々木が間に入ろうとした。だけど、陽の眼力に怯んだようだ。でも、啓介といったら、胸倉を掴まれている割に冷静に笑っている。

「ま、いいけど」

 そう言って、啓介は陽の腕を振り解くと、背中を向けた。



「俺はお前とは違う」



 そう言い残して……教室を出て行く。

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