AKIRA


 聞けば早いんだろうけど、今さら何を、って感じもする。いや「そうだよ」って言われるのが怖いのか。

「ちょっと、あれはマネージャーの仕事でしょ?」

 お、誰か知らんが、よく言った!

 ふと見れば、先輩の一人が平塚先輩に言ったみたいだ。

「そうね」

 でも、平塚先輩は亜美を一瞥しただけで、それ以上は何も言わない。

「まぁ、江口君がいるから木下もテニスに来てるって思うけど、ちょっと放任しすぎよ、朱音……いくら戦力だからって」

 朱音って、平塚先輩の事か……。

「ま、いいじゃない? それがテニスに向ける情熱に繋がってるんなら」

 お~い、それだけで放任すんの? ありえねぇ……それじゃ、どんどん亜美がつけ上がって……つけ上がって……って、どこかで俺もそうしたいって思ってるんだよな。

 陽の傍に行って、陽の汗ぬぐってやって……だから、それが平気で出来る亜美に嫉妬してるだけなんだよな。





 俺ってちっせぇ……。





「お~い! アキ!」

 なんだよ、うっせぇな、啓介かよ。

 そう思いながら、俺は啓介の方を見た。何やら、手招きしてるみたいだ。

「なに?」

 言いながら、今度は京子の方を見た。京子は何食わぬ顔で、俺を見て笑って

「行ってあげて」と口が動く。その笑顔と勇気が健気過ぎて俺には苦しいんですけど……。

 ったく、なんだよ。 

 俺は重い腰を上げて、啓介に近づく。でも。

「ねぇねぇ、俺にはタオルとかないの? お茶とか持ってきてよ」

 その言葉で、俺はすぐさま踵を返した。

 くっだらねぇ!

 何考えてんだ、啓介の奴!

 いくらお前に好かれてても意味ねぇんだよ!

 俺が……俺が見て欲しいのは……好かれたいのは陽だけなんだよ。

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