AKIRA


 ま、いいけど……。




「カト?」

 あ、また忘れてた……今度は京子の存在。

「な、なに?」

「テニス部希望だったの?」

「ああ、さっき言ったけど、なんか京子、聞いてなかったみたいだから」

 これは事実だろ。隠す必要ねぇし。

「え、そ、そうなんだ。ゴメン、私、何も聞いてなくて」

「いいよ、別に」

「あの、じゃぁ、私……」

 京子が言いたい事はわかってる。きっと、啓介の事だろ。

「私も、アキって呼んでいい?」

「へ?」

 なんか違う。啓介の事じゃなくて、俺の事?

「え、啓介の事は、いいの」

「え?」

「ほら、友達のよしみでマネージャーに、とか」

 そう言ったら、京子は真っ赤になった。わかりやすい奴。

「ううん、いいの。マネージャーの事は、ちゃんと自分で頑張ってなりたいし」

「ふぅん。でも、頑張るって何?」

「うん、あのね。あんなにいっぱいいるでしょ。だから先生がちゃんと試験して決めるらしいの。何も知らないより、テニスの事ちゃんと知ってる子を筆記と面接で選ぶみたい」

「へぇ」

「何だか受験とか就職みたいでしょ」

「ん、まぁな」

 だったらなおの事。俺に縋ってもよさそうなのに……京子はそんな事はしないみたいだ。

 俺はまた、昔から知ってる啓介の事、取り持って欲しいとか何とか言うのかと思ってた。それで、俺がテニス部入るから、マネージャーにでも推薦してくれとか……。

 でも違った。京子は、そんな事は考えていない。

 それだけ、啓介の事、真剣なんだって伝わってくるよ。

「ま、俺は何もしてやれねぇけど、頑張れよ」

 俺の言葉に、京子は嬉しそうに微笑んだ。

 でも、俺も心の中が笑ってる。

 入学式以来、喋ってなかった陽と、成り行きどうあれ、また喋れたんだから……それに。

 

 そっと耳を撫でてみる。



 アイツの触れた部分が、熱い――……。

 それが、俺に知らしめる。



 まだ、アイツの事、好きなんだろうなぁ、って。




~ 名前:晶side FIN ~



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