誠-巡る時、幕末の鐘-

向けられた敵意




―――早朝




「う、ん?あぁ〜よく寝た………何だこれ?」




奏が起きた時、枕元に薬が置いてあった。




「土方さんが昨日置いていったのかな?」




布団を片付け、障子を開けると今日の天気はあいにくの雨だった。


昨日の予想は当たっていたようだ。




「素振りをしようかなと思ったのに」




服を着替え、手には木刀を握る。




「仕方ないか。道場に行っても土方さんに怒鳴られるしな」




長時間のお説教と正座は嫌だ。


あれはキツい。




「何をしよう」


「雷焔君、もう大丈夫なのかい?昨日熱があったって聞いたけど」




声をした方を見ると井上だった。


昨日は巡察だったのでいなかったのだ。




「もう平気ですよ。土方さん達が大袈裟に騒ぎ立ててるだけですし」


「大袈裟なんかじゃないよ」




いつもよりも大分固い声に、思わず井上であるかどうか疑った。




「人間はちょっとの風邪をこじらせただけで死ぬんだよ。鬼もそういう事があるはずだよ?」


「鬼には……」




ない、とは言いきれなかった。



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