誠-巡る時、幕末の鐘-



「…って違う違う。嘘でしょ」




長年使ってきた術式を間違えるはずはない。


だとすると答えは一つ。




「力封じられちゃってる??」




奏の頭に鬼切の存在が浮かんできた。


力を使い過ぎて一時的に使えなくなる以外で力が全く使えなくなる方法など限られている。


鬼切は奏達、鬼にしてみれば最たる例だ。




「でも傷はないし。普通斬られたら目覚ますし」




そこが腑に落ちなかった。


いくら痛みに鈍感な者とて自分の身が斬られれば普通気付く。


奏が気付かないはずがなかった。


にも関わらずどこも血を流していない。


不思議としか言いようがなかった。




「お目覚めのようですね」




唯一出入りできそうな扉から一人の青年が入ってきた。


その手には盆に乗った水瓶や、茶碗、いくつかのお菓子があった。




「……近衛忠興」




青年、忠興はにこりと微笑んだ。



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