誠-巡る時、幕末の鐘-



「す、すまねぇ」




土方が奏が抜いた刀をゆっくりと下に下げながら言った。




「ごめんね、奏ちゃん。土方さんが迷惑かけて」


「おめぇもだろうがぁっ!! なに一人だけ良い奴ぶろうとしてんだよっ!!」




(あー、うるさいうるさい!!)




奏は障子をピシャリと閉めた。


しばらくすると、濃紺の着物に着替えて出てきた。


手には木刀が握られている。




「どこ行くの?」




沖田が不思議に思い、奏の背に叫んだ。




「道場!!」


「なら僕も行こうっと」




そう言うと、沖田は奏を追いかけようと身を翻した。




「あ、こらっ!! 待ちやがれ、総司!!! 返しやがれーっ!!」




土方の叫びだけが響いた。


可哀想な土方であった。



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