夏の記憶
「今生の別れ…」



タケルを見上げたまま、私はタケルの言った言葉を口の中で繰り返した。


どこかで聞いたことがあるフレーズだと思った。



「ま、そんだけ。」



そう言ってタケルは額の汗をぬぐってこちらを見た。



「優奈、これから予定ある?」



「へ?」



私の気の抜けた返事に、タケルはふっと笑った。



「いや…もしないなら一緒に…」



そこまで言って、タケルは頭をかくと「やっぱなんでもねえ」と言った。




「なによ?気になる。」




「なんでもねえよ。」




「タケルはこれからどこか行くの?」




「まあちょっと…駅前に買い物にでも行こうかなと。」




それなら私も一緒に、と言おうとして、私は自分は財布も持たずにつっかけをはいてここまで来ていた事に気がついた。



「私、家行って靴履き替えてくるから一緒に行かない?」私がそう言おうとして、なかなか言い出せずにいるうちに、タケルが口を開いた。



「優奈、明日は何してるの?」
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