Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「真白、どうなんだ?」
「も、っと……近付いて、ほしくて」
「それだけじゃ満足できないって顔してるが、それだけでいいのか?」
「い……意地悪ですよぉ」
しゅんとしていれば、さすがに悪かったと、先輩が頭を撫で始めた。
「悪い悪い。あんまり可愛いから、ついな」
「つい、じゃありません」
「だから悪かったって。――お詫びにキスしてやるから」
「っ! そ、それでお詫びをしなくても」
「キスじゃ不服だって言うのか?」
「そう言うわけじゃあ」
「ならいいんだな?」
「…………」
「真白――答えろ」
耳元で囁かれる声。反論なんてできなくなるあの甘い声が、全身に浸透していく。
「真白――返事は?」
「っ…………はい」
小さく、肯定の言葉を口にした。
ゆっくりと先輩の顔が近付き――軽く、触れるだけのキスがされた。
続けて、ちゅっと音をたて、唇がついばまれる。次第に激しくなり、後ろ頭をがっちりと抑え、息をも飲み込むキスが繰り返された。
さすがに数回目だから、息の仕方はわかってきたけど……。
それでも、まだちょっと苦しい。
「……、んん。せん、ぱっ」
肩を押し、苦しいことを伝える。
すると先輩は、無理やりすることなく止めてくれた。
「キス、前より上手くなったな?」
「う、上手くなっただなんて」
「前は終わった後、すぐに話せなかっただろう? あきらかに上手くなってるな」
「わざわざ言わないでも」
「言った方が面白い反応してくれるからな。――体は、もういいのか?」
「た、多分」
今はダルさよりも、体の熱さの方がきになる。
「なら、今度こそ帰るか」
手を引き、先輩が立たせてくれる。
それから二人で紫乃ちゃんの所へ行き、また今日も、四人で下校した。
◇◆◇◆◇
今日は苦手な宿題が出たから、紫乃ちゃんに見てもらっていた。
こういう時、部屋が隣だと助かるんだよね。
「ん~……紫乃ちゃん、ここの訳あってる?」
「どれどれ。――うん、だいたいOK。じゃあ次はこれ」
「え、っと……」
「Good luck.You can translate the English!」
(頑張って。あなたなら英語を訳せるわ!)
「が、頑張ります……」
「お、耳が慣れてきたみたいね?」
いつも紫乃ちゃんから言われるから、この単語は自然と覚えてるんだよね。
「グッドラックは、毎回言われてるから」
「その調子でやれば、時期に話せるようになるわよ」
ん~それはどうかと。
紫乃ちゃんみたいに話すには、まだまだ勉強がいると思うなぁ。
「All right! Study is end.」
(よしっ! 勉強は終わり。)
パンっ! と、ノートを閉じる。
ようやく苦手な科目が終わったことに、私は大きなため息をついた。
「もう八時なのね。真白、ご飯一緒しよう」
「うん。じゃあ、おかず持ってくるね」
「よろしく~。あ、ご飯はあるから」
部屋に戻り、冷蔵庫の中を見る。
昨日作ったぶり大根と卵。あとはミンチとサラダがある。
ぶり大根だけだと少ないから、もう一品と出し巻きを作り持って行った。
「お待たせ~。魚と出し巻き持って来たよ」
「やった! 真白の出し巻き好き~。じゃあこっちはサラダと――トマトスープでいい? レトルトだけど」
「もちろん」
おかずを並べると、テレビを見ながら食事を始めた。
ちょうど、夏休みおススメスポット特集をやっていた。
「夏はやっぱりお祭りよねぇ~。真白、今年はカレシと行くでしょ?」
「っ!? ま、まだそういう話は……」
「してなくても、行くことは確実でしょ?」
行けたらいいなって思うけど……先輩の予定、わからないし。
就職とか進学で、大変になる時期なんじゃないかなぁ。
「っていうか、デートもまだなんじゃない!?」
「――――あっ」
「今更気が付いたの? 全く……あいつも早く誘ってあげればいいものを!」
遅いわよね? と言う紫乃ちゃんに、私は苦笑いを浮かべていた。
確かにまだ、デートしてなかったんだった。
行くとしたら――二人で、ゆっくり過ごせる場所がいいな。
「こうなったら、真白から誘っちゃえば?」
「へっ?」
「そしたらあいつ、珍しく顔赤くすると思うからさ」
先輩が顔を赤く――。
見れるものなら、ちょっと見てみたい。
「でも、私から言うのは緊張して――」
「ならメールは? 恥ずかしがる顔は見れないけど、きっと即行で電話来るから、戸惑ったような声とか聞けるかもよ?」
あまり先輩が戸惑うなんてことはないと思うけど……。
私から言ったら、そんな先輩が見れるかなぁ?
「とにかく、デートの話はしてみたら? 真白だって、あいつと出かけたいでしょ」
「そりゃあ、まぁ」
箸を進める手が遅くなる。
その様子に、紫乃ちゃんはとてもうれしそうにこっちを見ていた。
「いや~見てて面白いよ。真白はやっぱ、いじり甲斐がある」
「もう、紫乃ちゃんまで先輩みたいなこと言って」
さすがは親戚というか、二人には結構似た部分が多い気がする。
こうやって、私のことを面白いだのいじり甲斐があるだの。セリフまで同じな時があるから驚きだ。
このままだと、色々と聞きだされかねない。
「紫乃ちゃんも、賀来先輩を誘ったらどうなの?」
だから、これ以上聞かれる前に、攻撃を仕掛けることにした。
今のところ、この話題が一番効果的なんだよね。
「まだ、賀来先輩とは付き合わないの?」
「付き合わないっていうか……。そもそも、そーいう関係にはなれないっていうか」
紫乃ちゃんが、徐々に乙女になっていく。
その様子を見てると、なんとなく、いつも私に話をさせたがる気持ちがわかったような気がした。