LOST MUSIC〜消えない残像〜
すると、ゆっくりと顔を上げて、錫代がこちらを向く。
目を擦りながら見せた泣き笑いの顔。
野外ステージによっておちた影の中、ただ一つ輝く笑顔。
俺は真昼の空に浮かぶ月を見上げた。
決して逞しくはなく簡単に消えてしまいそうなのに、その美しさはやわらかな強さを秘めてる。
たとえ気付かれなくとも、どんな時も光り照らす、この真昼の月のように。
俺はその光りに助けられたんだろう――。
「なぁ、客席は見たか?」
だから今度は、錫代自身が光を見つける番だ。