LOST MUSIC〜消えない残像〜


「翠月ぃ~!待ってたよぉ!」


中からは猫でも可愛がるような変に高い声が聞こえてくる。


俺はそんな千秋の声を聞きながら、部室の外で戸に寄り掛かった。


仲良くやってんなら、俺なんか来ないほうがいいだろ……。


錫代がいる光景があまりに馴染んで見えて、自分の周りに透明な壁を感じた。


なんだか、全てが違う世界になっちまった気がするんだ、あの日を境に――。


「おい、奏斗。入れよ」


そんな壁を突き破ってきたのは落ち着いた低音。


いかつい顔で微笑みかける智也だった。



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