風と海
三日月の夜
この街は何でも揃っている。


ありとあらゆるものがたくさんあって。


溢れるほどの情報が行き交っていて、
どれが正しい情報なのかも定かじゃない。


「正しいもの」なんてないかもしれない。

それでも選択して、選択しての繰り返し。

新しいものが次から次へと出てきて。

その度、古いものは消えていく。



このマスカラだってそう。
使いやすかったのに…。


ピンクのハートマークのついたマスカラを
何度も何度も短い睫毛に重ねている。

長く太くなりますようにって、鏡に向かいながら
たっぷり重ねていく。


「ふうちゃん、聞いてってばー」


美風の向かいに座っている、
友人の由香は長い睫毛に大きな丸い目をしていて、
本当に可愛い。
丸い目を大きくさらに大きく開き、
美風に詰め寄る。


「なによーだから、俊くんと付き合えばいいじゃん。」

美風はそっけなくマスカラに願いを込めながら、
口にした。

「だけどー、俊くんさー何か違うかもって…」

「好きだったんでしょ?判断は付き合ってみてからでも
遅くないじゃん。」

由香は長い髪をいじりながら、そうかなぁなどと口にする。

由香は昔から男子に人気がある。


美風は男友達は多いが恋愛には発展せず
友情で終わってしまう。



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