【ほのB】リトル・プリンス
「てめ!
 あの花の『ミズノ』って……」

「そ、オレのこと。
 偽名ってか『通称』って言うヤツだ。
 地味だし、こんな遊びの時にはフツーに使ってる名前だけど。
 本名に近いから、莫迦にするとキレるヤツらが多くて、困る。
 お前の現役時代の踊りを見てるヤツも山ほどいるし。
 ……こんな奴らが見ている前で、手を抜いたり。
 ましてや、拒否するなんて、そんな莫迦なコト、できるワケねぇよな?」

 言って、トシキは獣みたいにほほ笑んだ。

「さすがに、これでもう逃げられないだろ?
 諦めて『椿姫』をしっかりばっちり踊って。
 お前が本当はどんなヤツだか、この街のヒトビトに見せつけてやれ。
 キレイでエロい雪の王子」

 コイツは、どうしても『雪の王子』にしたいらしい。

 唇をかみしめる僕に、トシキは言いやがった。

「ま、これで街に居づらくなったら、オレの所に来ればいいから……」

「僕に殴られたくせに、まだそんなことを!」

「……だって、オレ。
 螢に本気だから……」

「はあああ?」


 一瞬、トシキがナニを言っているのか、判らなかった。


 今度は、何の嫌がらせだ?

 と、睨めば。

 案外真面目そうなトシキの瞳が、僕を見てた。

「……例えば、お前に心から惚れたって言ったら……信じるか……?」

「莫……迦……」

 そんな切なそうな顔をしたって、あんたにやれるものは何もない!

 しかも。

 普通。

 『惚れた』相手にこんな無理を押しつけるか!?

「信じるワケないだろ!
 あんたが気に入ってるのは、僕のカラダだけだ。
 しかも、今まで意識したことのない『男の』だったから、ただ、珍しいだけだろ?」

 なんて、そんな僕の答えに、トシキの瞳が、ひゅっと細まった。

「……だな。
 オレも気の迷いだと思ってる」

 言って、トシキはけだるげに手を上げた。

< 90 / 107 >

この作品をシェア

pagetop