【ほのB】リトル・プリンス
『てめぇ、勝負だ!』なんて、心の叫びが聞こえたのかどうか。

 僕が踊っても、思った通りの結果にならなかったのが気に食わなかったのか。

 ボケボケの音を出していたトシキの目が見開かれた。

 コミック・ダンスで緩んだ空気が引き締まり。

 フラメンコの熱気が戻って来る。

 熱く輝くステップは、僕の意志、だ。

 愛しい者は、僕が守る。

 素姓の判らない僕を受け入れてくれたこの街を。

 僕の繋がりの方で、荒らされたくはないから。

 文句があるヤツは、この場に出て来い……!

 そんな叫びにも似た、ステップを踏めば、トシキがだんだんノって来た。

 ボケた印象の音が引き締まり、正確な音程とリズムで弦をかきならす。

 心配そうな顔をしていた歌姫も本来の声を取り戻し、パルマが曲を導いた。

 可愛い女の子が、愛しい男に捧げる愛の歌は。

 街を守る男の踊りに変化して、熱いうねりとなった。

 愛してる。

 愛しいヒト。

 優しい街。

 優しい人々。

 ……だから、守る……!

 僕は、我を忘れて自分の中の想いを全部吐き出すように踊った。

 だんっ、と踏みならされた想いは、コントラ(床)を踏みしめ。

 曲を引き裂かんばかりの威嚇は、僕の背にある竜の咆哮になった。

 そして。

 僕の踊りに引きずられるように、歌と手拍子とギターがひときわ高く吠えて『ガロティン』を終えたとき。

 祭りの会場(ホール)には、しん、とした取り返しのつかない静寂が広がっていた。


 ……


 その。

 拍手も何もなく。

 呆然とした静けさの中で僕は、ようやく。

 まちがいに気がついた。


 ……僕は。


 やり過ぎてしまったんだ。
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