Dear my Dr.
この気持ちは、何て言うんだろう?

不信感?

それよりも…嫉妬?

私だけが愛されてると思いたい。

私だけを見てほしい。

気付けば、ひとりサンダルを引っかけて街を歩いていた。

先週買ったばかりで、いつ履いて行こうって楽しみにしてたのに。

走ったせいか、靴ずれも…。

「……最悪」

つぶやいた言葉は、街の音にかき消されて行った。

耳を澄ませても、悠ちゃんが追いかけてくる気配もない。

思い返す、30分前のこと。

家を出てくるときに、確かに、悠ちゃんは私の腕をつかんだ。

私は言ったんだ。

“ついてこないで”って。

“ひとりにさせて”って。

そしたら、悠ちゃんの手はアッサリほどけて、私を解放した。

笑えちゃうくらい真面目というか、素直というか…

悠ちゃん、知らないの?

こういう時、女の子は追いかけて来てほしいものなんだよ。

どれだけ突き放したって、そんなの本心じゃないんだよ。

脳外科医のくせに、妻の頭の中は全然わかんないのね?

靴ずれが痛む足を止める。

ひとつだけ深呼吸してみる。

気持ちも落ち着いてきた。

やっぱり、ちゃんと話さなきゃ。

信じてるけど…ちゃんと証明してほしいから。

悠ちゃんが、浮気できるほど器用じゃないってことも知ってる。

余裕そうに見えて、実は内心焦ってたりすることも。

きっと後で笑い話にできるよね?

私の足は、まわれ右して家に向かった。

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