Dear my Dr.
つい1週間ほど前。

突然切り出された留学の話。

「アメリカの病院で、もう少し勉強したいんだ。美波も付いてきてくれるか?」

日本は先進国でありながら、法律が厳しくて、なかなか最新の技術を実践できない環境らしい。

彼は優秀な医者だから、もっと上を目指したいんだ。

断る理由はなかった。

婚約者なのだから、付いて行くのが当たり前だとも思った。

でもねぇ。

言葉のあやかもしれないけど、ちゃんと“結婚しよう”って言ってほしかった。




「お母さん」

「うーん?どうしたの?」

お風呂から上がって、キッチンに立っているお母さんに声をかけた。

お料理教室の復習中かな。

「あのね…悠ちゃんに、アメリカ留学したいって言われた」

お母さんはレードルを持ったまま固まる。

「…アメリカ?」

「…うん。付いてきてほしいって」

「そう……」

それだけ言って、お母さんはまた鍋をかき混ぜ始めた。

ゆっくりと。

5回ほどかき混ぜたあと、静かに言った。

「美波はもう決めてるんでしょ?」

付いて行く。

そう言った。

その答えを聞かないまま、お母さんは私を抱きしめた。

「悠哉くんの言うこと、ちゃんと聞くのよ?」
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