Dear my Dr.
「次期院長は…お兄ちゃんが帰って来ないなら、私が継ぐ」

「美波…何言ってんだ」

「院長は医者じゃないといけないなんて、そんな決まりないでしょ?」

もしものことがあったら。

フラフラしてるお兄ちゃんが、病院を継ぐ保障なんてない。

だから、お父さんは踏みとどまってしまうんじゃないかって。

そう考えた。

じゃあ、どうしたらいい?

悠ちゃんを縛り付けるわけにはいかない。

そうなったら…

私が継げば問題ないんじゃないの?

お父さんは無言だった。

「もし病院のことが心配なら…私だって伊崎家の娘として生まれた義務があると思ってるよ」

“家”の重みを感じる。

たまたま私が喘息を持っていて、それで医者になることを勧めなかっただけ。

本来なら、私だって医者として、受け継いでいく責任もあったんじゃないかな。

「そうだな…美波の気持ちはありがたいよ」

お父さんは、それだけ言って書斎に入って行った。

……。

言っちゃった…!

内心ドキドキしていた。

私の人生、まさか、こんなことになるとは思ってなかったから。






次の日の早朝。

ケータイの着信音で目が覚めた。

ディスプレイには“お兄ちゃん”の文字が映る。

「…もしもし…?」

半分寝たまま電話に出ると、急に耳元で割れるような声。

「お前バカか!?」

耳の中が、きーん、と音を立てた。

朝から怒鳴られるなんて…。

「院長継ぐとか言ったらしいな!?もー…お前ってホント、世間知らずっていうか…」

世間知らずなのは自覚してるけど、フラフラ、チャラチャラしてるお兄ちゃんに言われたくない。

「だって…お兄ちゃんが継がなかったら、悠ちゃんが継げって言われてるらしいから」

「…だから?」

「脳外科が専門じゃない病院に閉じ込めておくなんて、ひどいと思う」

「だから?」

「だから、私が代わりに」

「…はぁ~…」
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