Dear my Dr.
悠ちゃんはしばらく考えていた。

思い出せないみたいで、眉間にしわを寄せて、目を閉じて、首をかしげながら。

「晴れてたのに、急に夕立が来て…」

私がそう言った瞬間、

「…思い出した」

「駅から少し離れたカフェで」

「思い出したよ。けど、鳴海梓と僕は付き合ってない」

キッパリと言い放つ。

そして、続ける。

「梓は僕なんて相手にしないよ」

「でも、別れ話してたじゃない!」

「そうだけど、あれは…」

「“好きだけど結婚してあげられない”って言ってたの、聞いたもん」

「美波、あれは兄貴の話」

「……え???」

話の急展開に頭がついていかず。

さっぱりわかんないですけど。

「浩哉くん?」

「そう。兄貴と梓は付き合ってたんだけど、兄貴が“別れよう”って言いだして」

「なんで?あんな才色兼備な感じなのに」

「親父が反対したんだよ。“女医はプライドだけが高くて嫌だ”とか何とか言って」

お義父さん、そんなこと言うんだ。

今のお義父さんからは想像できない。

「今は丸くなったよ。けど、その当時は“次期院長の嫁なんだから、黙ってついて来るような女がちょうどいい”って」

「だからって、なんで悠ちゃんから別れ話をするの!?」

「2人で話しても平行線で。だって兄貴も、梓のこと好きだったんだし…」

まぎらわしいよ。。。

でも、その後の2人のことが気になる。

やっぱり別れちゃったの?

「僕だって、そんな話したくなかったよ」

「それで、どうなったの?」

「自然消滅…かな。兄貴はまだ梓のこと好きなんだろうけど、梓は行方知れずだったし」

「行方知れず!?」

「だから、今日会ってびっくりした」

…だから、あの表情ってこと?

そりゃ驚くよね。
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