Dear my Dr.
外来の診療はまだまだ待っている患者さんも多くて、今日も忙しそうだ。

正面玄関を素通りして、職員入口に。

暗証番号は…えーと、

ゴクローサンっと。

ありがちな暗証番号だよね。

ピピっと音がしてロックが解除される。

遠慮なく茅島病院さんの中に。

廊下を歩いていると、年配の警備員さんとすれ違った。

目が合うと会釈される。

「これはどうも、悠哉先生の…」

「こんにちは。ご苦労様です」

顔パスがきくなんて、私も偉くなったもんだなぁ、なんて。

医局の前には製薬会社の営業マンがズラリと並んでる。

MRさんってやつかな?

営業の大変さは、私もOLをしていたからよくわかるよ。

そして、そのMRさんに引き止められている最中の悠ちゃんを発見。

「ふーん、そうなんですか…また資料読ませてもらいます」

乱れた前髪をなでつけながら、ちょっと適当な返事をしている。

たぶん手術の後なんだろう。

疲れてそうだもん。

それに、あの前髪が証拠。

近寄っていくと、私に気づく。

「あ、れー?どうしたの?」

「医局のみなさんにタルトをおすそ分けしようと思って」

「そうなんだ、ちょうどよかった。医療秘書さんがイギリスのお土産に紅茶をくれたから」

そういいながら、医局のドアを開けて私を通してくれる。
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